税理士として独立開業したい時。開業に必要な費用や過程、メリットとデメリット

税理士の資格を取得しようとしている方の中には最終的に自身で独立開業を行う事を目標としている方も多いでしょう。しかし近年では税理士の人口が増加している傾向にあり、また企業自体が減少していて、いざ開業したとしてもクライアントを集めることが難しくなってきているといわれています。ただ独立開業するだけでは成功しづらくなっている中で、出来る限り多くのクライアントを集めて税理士としての成功を目指すために、この記事では税理士の試験と資格の取得、独立開業のために必要な資金やデメリットなどを紹介していこうと思います。

税理士資格を取得した後の開業するまでの流れ

税理士試験は国家資格の中でも難関で、1年で必要な5科目を全て一発合格できる方は中々いないとされています。一般的には会計事務所や一般企業などで勤務して実務経験、実績作りを行いつつ数年税理士試験合格を目指していく方が多いでしょう。試験勉強だけでなく、独立するときのことを見据えて事前に多くを学んでいくことが大切になります。税理士試験から独立開業までの流れを見てみましょう。

1. 税理士試験

税理士になるための方法で一般的なのは税理士資格を取得して実務経験を2年以上積むという方法です。税理士資格の取得には年に一回開催される税理士試験の全11科目の中から、会計科目を2科目、税法科目を3科目の合計5科目に合格することが必要です。1度の試験で5科目全てを合格することは難易度が高いため、数年をかけて合格する方が多いです。試験勉強をしながら独立開業のために税制改革や税理士界隈の市場動向などのニュースは可能な限りチェックし、情報収集もしておくのが良いでしょう。

2. 試験に合格したら

税理士試験は例年では5月中旬から下旬まで申し込み期間が設けられており、試験は8月上旬の3日間で実施されます。合格通知が送付されるのは12月ごろです。税理士と名乗るためには日本税理士会連合会に登録出来なければなりません。登録のためには通算2年以上の実務経験が求められます。

3. 実務経験

試験に合格した後、正式に税理士となるには日本税理士会連合会へ登録しなければなりません。その際に下積み、実務経験が求められます。実務経験とされるのは租税、または会計に関する業務のうちの所定の業務に通算で2年以上従事したかどうかで判断されます。よって、税理士試験の勉強をしながら会計事務所といったところで勤務し、実務経験を積みつつ試験合格を目指すことが一般的とされています。下積み時期は税務処理の技術やノウハウを学ぶだけでなく、人的ネットワークを築き上げていくためにも重要な時期となります。また、この時にも将来の独立に向けての情報収集は徹底しておきましょう。仕事に真摯に取り組みつつ、その事務所がどのように業務を行っているのか、経営方法や人員体制を見ておくことで自分が独立するときの参考にもなっていきます。

4. 税理士登録の申請

税理士試験の合格と、要件として求められる実務経験の期間を満たせば税理士名簿へ登録申請しなければなりません。日本税理士会連合会の税理士登録申請書を記入して必要書類と共に提出します。必要書類については日本税理士会連合会のwebで事前に規定を確認しておきましょう。 また、日本税理士会連合会のサイトでは地域に税理士や税理士法人がどれくらいいるのかを検索できます。自分が事務所を開こうと考えている地域にはどれくらい同業者がいるのか、クライアントになり得そうな企業が多いかどうかを事前に調べて検討しておくとよいでしょう。申請書が受理されると、申請先の税理士会の面接や調査などが行われ、審査に通過できれば名簿登録と官報に公告がされます。

5. 資金調達

下積みを積み、人的ネットワークや開業後に必要なスキルを磨いていくとともに、独立開業のための資金準備も進めましょう。独立すると事務所の賃貸料など店舗費用だけでなくオフィス内の設備や家具、広告費など多くの資金が必要になります。開業資金は事前にコツコツと集めておく事をお勧めします。

6. 独立開業に必要な知識を持つ

初めての独立開業で事前に何が必要か不明なことが沢山あると思います。書籍やインターネットだけでなく、他の先輩税理士の方から実際に話を聞いたり、税理士の独立開業のためのセミナーや講習会に参加するなどが主な情報収集の方法です。日本税理士会連合会のwebにも登録と開業のための手引書として留意点などが掲載されているため、一度目を通しておくと良いでしょう。

独立開業にかかる費用

独立開業に必要な資金は、事務所をどれくらいの規模で展開を希望するかによって大きく変化します。開業直後に資金が足りないなどの不測の事態に陥らない為にも、事前に費用の目安は調べて対策しましょう。

1. 税理士登録のための費用と会費

税理士になるとまず税理士登録のために登録免許税で6万円、手数料で5万円がかかります。またそれだけでなく、税理士会というのは地区や支部などに組織が細かく分化しており、その地方ブロック、支部の両方に会費を払わなければなりません。登録費用は一度限りですが、年会費は毎年かかります。会費の金額は地方ごと、税理士会によって違うため注意しましょう。登録の際に必要な書類の中には本籍地記載の住民票の写しといったものがあるため、それらの発行にも費用が掛かることも考えておきましょう。 税理士会に入会するのには維持費が多くかかりますが、入会するメリットは数多く存在します。他の税理士と関係を持つことで人脈づくりにも繋がりますし、最新の税務の知識や情報、会計基準に関する研修が開催されており税理士会に所属している者なら低い受講料で受けることが出来ます。税理士として必要な知識や情報交換のために活用するのが良いでしょう。

2. 事務所の維持費

どのような形態で事務所を開くかによってコストは変わりますが、将来的な事業の規模や業務形態などに合わせ、また後々に変更する可能性も視野に入れながら計画を立てましょう。

・自宅で開業する場合

まずオフィスに関する費用を一番安くできるのが自宅開業です。開業のために自宅を転居する場合は別ですが、オフィスにかかる敷金や礼金、仲介手数料といった初期費用が不必要になります。場合にもよりますがオフィスに関わる初期費用をゼロに抑えることもできます。

・レンタルオフィス

近年よく見られるようになってきたのがこのレンタルオフィスを使う方法です。椅子やデスク、インターネット環境など、業務に必要な基本の機器が備え付けられているオフィスです。個人事務所として開業をする場合には従業員が自分一人から始める人も多いと思います。レンタルオフィスの場合には最低限の必要なスペースをレンタルするだけなので家賃を2~3万円程度に抑えることが出来ます。他にも複数の企業が共同でレンタルするコワーキングスペースでは初期費用は家賃と共益費、入会金程度なので維持費も少なくできます。レンタルオフィス自体立地条件が駅前など良いものが多いため、顧客を集めるのにも好条件である場合が多いでしょう。

・賃貸事務所

この中で初期費用が一番多くなるのが賃貸で事務所を開く方法です。坪単価となるため、地域によって賃貸料に大きな差があります。また一般的に事務所を借りる際には仲介手数料のほかに前払費用、家賃の6か月分の保証金などが要求されるため、初期費用に家賃の約8倍必要になります。 やはりクライアントの信用や流入などを考慮して一等地で事務所を開きたい所ではありますが資金にも限りがあります。最初から無理して一等地を借りるのでは無く、まずは自宅で開業する、レンタルオフィスを利用して資金を貯めてから賃貸に事務所を移転をするなど状況に応じて対応していくことをお勧めします。

3. 会計・税務のシステムソフト代

独立開業をするならば税務や会計を行うシステムソフトは必須になります。ソフトにはインストールするパッケージ型とインターネットに接続して利用するクラウド型の二種類があります。パッケージ型は買い切り型のため初期費用は掛かりますが、費用自体は一度で済むためトータルで考えるとクラウド型よりも安くつくことが多いです。インストールしたデバイスでしか利用できない事、運用管理やバージョンアップへの対応に手間がかかることがデメリットです。料金はソフトの性能や機能量によっての差が激しく、1万円から15万円以上するものまで幅広く存在しています。クラウド型はインターネットに接続できればいつでも利用できます。月額料金を払うサブスクリプション形式のものが多く、様々なデバイスでアクセス可能なため情報の管理やバージョンアップが簡単であることが利点です。月額料金は300~3000円程度とされており、パッケージ型と同じようにソフトによって差が激しいです。機能性や金額、用途など慎重に検討して会計ソフトは選択しましょう。

4. 営業費

独立開業の後は顧客獲得のためのマーケティングや営業は必要不可欠です。webサイトやロゴ製作など自作すれば低コストで済むものもありますが、自作が難しい場合には外部に依頼する必要があります。webサイトの開設には20~100万円、ロゴの政策にも2~3万円程度必要とされており、他にも名刺やチラシの印刷費なども必要になります。これらの資金だけでなく、ハンコの制作や事務所に必要な備品の購入費、広告費や社会保険料など多くの資金が必要になります。経営がすぐに軌道に乗るとも限らない為独立開業のための資金とは別に半年分程度の生活費は蓄えておくのが良いでしょう。

独立開業と所属税理士との収入の違いは?

・独立開業の場合

独立開業をしている税理士の収入はその税理士本人の力量次第です。2004年の日本税理士連動会の調査によると500万円未満から3億円以上まで税理士によってそれぞれで差が大きい物になっています。今まで作り上げてきた人脈を通してクライアントを紹介してもらったり、自身でも積極的に新規顧客を呼び込んでいこうと取り組んでいけば徐々に収入も増やせるでしょう。一人で多くの顧客を抱えることは難しいかもしれませんが、その場合は事業の規模拡大をすることで業務を続けていくことが出来ます。勤務税理士の年収を大きく上回ることも可能です。また、自身の体力などを考えて無理のない範囲に顧客数をわざと抑えている税理士も存在します。自営業となると定年退職のない仕事になるので、自分に合った仕事量で長く続けていくことができるのは独立開業の利点です。

・所属税理士の平均収入

では所属税理士の年収はどの程度なのでしょうか。開業税理士と同じく個人差はありますが、厚生労働省が発表している平成29年度の賃金構造基本統計調査から算出してみると、税理士・公認会計士の年収は約813万円となっています。 このように、所得税理士の時よりも独立した後の方が収入が減ってしまう可能性も大いにあり得ます。自分のペースで仕事ができる方が良いと思う方もいれば、やはり収入が減ってしまうのは不満だと思う方も多いでしょう。しかし、独立開業をしてすぐの年収は低かったとしても、今後の自身の努力次第で追い越すことができる可能性が残っていることも知っておきましょう。

・開業して収入を上げるには?

開業税理士が収入アップを目指すにはどうしたらいいのでしょうか。開業税理士の収入に最も大きな影響を与えるのは顧客の数です。顧客の数や業務などが変化しなければそのまま収入が変化することは少ないので、収入を上げる一番の方法は顧客数の増加を目指すことでしょう。他にもコンサルティングや業務を拡大することで収入の増加を狙う事も出来ます。今いる顧客とのつながりも重要になります。顧客と業務に対し誠実に向き合い、良い実績を顧客に評価されれば、その人脈から新たな顧客を紹介してくれる可能性があるからです。

独立開業のメリットとデメリット

・独立する利点

独立開業することのメリットとして一番に挙げられるのが高収入を得られる可能性があることです。より高い収入を得るためには顧客の量だけでなく、良い顧客に恵まれているといった場合は良くなります。そのような質の良い顧客を見つけることが出来るか、そこから開拓していけるかは開業税理士の営業の腕前にもよるため、重要な要素です。 健康状態にもよるでしょうが、定年を気にせずに働き続けることが出来るのもメリットです。生涯年収を考えると、所属税理士との収入の差はより大きくなります。ほかにもセミナーを開講したり、著作といった本業とは別の仕事で収入を得やすいというのも利点の一つです。 ほかにも、勿論サボることは出来ませんが、自分のやりたいペースで仕事ができること、時間の使い方を自分で決めて動けることもメリットとして挙げられるでしょう。経営が軌道に載って安定すればクライアントを自身で選ぶこともできます。良い依頼と悪い依頼の取捨選択をして仕事の効率化を図れるのでよりよい仕事ができるでしょう。

・デメリット

独立開業をする場合について回るデメリットは廃業のリスクと経営者としてのプレッシャーです。営業を自分から進んで行わなくても顧客を得ることが出来る時代も昔はありましたが、現在はそのような方法で生き残るには難しくなっています。所属していた税理士事務所から独立して開業しても、それまで自分が担当していた顧客をそのまま持っていくことは禁止されている所が多く、営業エリアが被ることで顧客の取り合いになることを気にして独立開業自体を嫌がる所長も多くいると思います。 その為営業を怠らないようにしなければ新たな顧客を獲得は難しいのですが、営業の技術というものは税理士の専門性やスキルとはまったくの別物です。営業が得意な税理士であるかどうかによって今後どのようなクライアントを獲得できるか、収入を得られるかにも繋がっていくことになります。では営業が苦手な税理士はどうなるのかですが、新規に顧客を得ることが容易ではない為事務所の経営にも影響してしまいます。 独立してうまく経営が軌道に乗れば高収入を得られますが、顧客の獲得が上手くいかなければ収入は不安定になり、所属税理士の時よりも収入が低くなってしまったり、最終的に経営不振となってしまい、廃業になるリスクが高くなるでしょう。それだけでなく、病気や入院が必要になっても自分の代わりがいないということもデメリットの一つです。個人事業主として自分で経営していくことが殆どですので、体調を崩しても休むことが難しく、入院などで長期間仕事が出来ないと顧客が離れてしまい、収入がなくなってしまうという危険もあります。所属税理士と違い休暇制度なども存在しない為、介護や育児、自分が倒れた場合などどうしても仕事をすることが難しい場合には事務所をたたまなければならない状況になってしまいます。自分以外に従業員などを雇っていた場合には従業員たちの生活の保障をしなければならないというプレッシャーもあるでしょう。所長として、事務所を開いたからには業務の責任は全て自分が負う必要があります。確定申告の書類などに誤りがあれば修正する必要がありますし、顧客を守るために指南したことが後々刑事責任問題にまで発展したり賠償責任が生じる場合があります。

成功するためのポイント

・自分の得意、専門とする分野を明らかにする

自分の得意分野を決めてその分野のスペシャリストとなることで他の税理士との明確な差をつけることが大切です。評判が上がれば自然とその分野に関する顧客が集まりますし、信頼にも繋がります。

・付加価値の高いサービス

1人で請け負う事の出来る仕事の量にも限界はあるため、薄利多売で営業をしてもそもそもの量に限界があり最終的には悪循環の中で自分の首を絞めかねません。適正価格のなかで、さらに付加価値を付けたサービスを提供できることもコツです。

・高い営業力

独立開業と営業は切っても切れない関係にあるため、仕事として割り切って営業をしましょう。人同士対面での営業に苦手意識があっても最近はインターネットやwebサイトなどを通して顧客を呼ぶことが出来ることもあります。自分の持っている技術と顧客のニーズに沿ってマーケティングを考えていくことが大切です。

最後に

独立開業をして自分の事務所を持った時点で自分は経営者であるという自覚をしっかりと持ちましょう。所属税理士の時は自分の所属していた組織の庇護下にありましたが、独立すればその責任は全て自分にかかることになります。顧客獲得のための営業や事務所の経営といった税理士としての仕事以外の事も行わなければなりません。これらの仕事を通して経営者としての経験を積み上げることは決して無駄にはなりません。クライアントも同じく経営者であるため、同じ経営者としての悩みを通して顧客への理解へのきっかけにもなります。自分のスキルを磨き、キャリアや収入を得る機会にもなります。独立開業をするのに必ず成功できる方法はありませんが、自身の努力の積み重ねが将来の成功のカギになり得ます。

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