店舗売却の基本知識・飲食店を売るには。相場や費用、税金と合わせて説明していきます
飲食店などの店舗売却の方法は様々ですが、主な方法は居抜き売却と事業売却です。事業売却はM&Aの一種で小規模店舗の売却でも一般的になってきています。ここでは店舗の売却の方法や流れ、気を付けるべき注意点や売却相場、発生する費用と税金も合わせて説明しています。
店舗売却は主に「居抜き売却」と「事業売却」
居抜き売却
そもそも居抜きとは、賃貸店舗を現状のまま、内装や設備などの造作を解体せずに次の借主に引き渡すことを指します。この設備などは契約上では造作一式の譲渡なので、造作譲渡という形で取引することになります。
居抜きを行う売主側の主な目的は退店コストを抑えることです。
賃貸店舗を退去する場合、本来であれば内装などの造作を解体して借りた当時の状態に戻す原状回復工事が必要になります。借りた当時の造作が一切ない状態の物件をスケルトン物件と言います。
居抜き売却であればこのスケルトン化させるための原状回復工事の費用や手間が削減出来るのです。
また、退店となった場合には物件のオーナーへ退店前の3か月もしくは6か月前に解約予告をしなくてはなりません。
店を営業していても、原状回復工事で売りあげが無くても解約予告期間中は同様に賃料が発生してしまいます。
居抜きであれば買い手が見つかればそのまま、もしくは一部の改修のみの短期間低コストで店舗を引き継ぐことが出来ますので、賃料だけがかかってしまうような期間を削減できます。
注意しなければならないのが、オーナーの許可です。
従来までスケルトン物件での退店が通例だった為、自身が契約した当時であればそのように取り決めがなされている契約が多いので、居抜き売却をするにはオーナーへ交渉・許可を得ておく必要があります。
最近では居抜きは主流になっており、オーナーにとっても次の借主が間をおかず物件の賃料を払ってくれるので許可を得られるケースが増えています。
ただし、承諾料として居抜き売却の10%程度を請求されることもありますので覚えておきましょう。
事業売却
事業売却は、事業そのものを買い手に譲り渡すことを意味します。
居抜き物件では店名などは勿論変わりますが、事業売却では取り扱っている商品名や店舗の名前なども変わらずそのまま使うこともあります。
事業売却は法律上では事業譲渡と呼ばれます。
店舗の事業は多種多様な資産や負債で成り立っています。
居抜き売却と同様の内装などの造作や、敷地・物件にはじまり、業務用のソフトウェア、事業の運営ノウハウ、店名、ブランド、人材の引継ぎ雇用、リース品の設備、労使問題や顧客トラブルなどによる訴訟損害賠償リスクなどなど・・・
居抜きと比べてはるかに広範囲の項目が取引対象になります。
譲渡する資産・負債の範囲は売り手と買い手双方ですり合わせていき、決定すれば事業譲渡契約書に明記します。
従業員を引き継ぐ場合には2通りあり、一旦退職して新たに買い手と雇用契約を結ぶ方法と、現在の雇用契約をそのまま承継する方法があります。
いずれの場合も従業員の同意が必要です。
その他の契約や債権・債務についても同様に承継するには相手方の同意が必要になります。
造作を譲渡する場合は居抜きと同様に物件のオーナーの同意が求められます。
リース品などの負債は譲渡対象に含めず、引継ぎ前に清算しておくことが一般的ですが、残債のあるリース設備をそのまま譲渡するケースもあります。
事業売却は身内に後継者がおらず、第三者に譲渡しブランドや雇用を維持する目的や、
新たな事業、引退後の生活のための資金獲得などの目的のために行われています。
飲食店などの店舗の売却相場
居抜き売却の相場
一般的な小規模店舗である10~15坪程度の居抜きの場合、100~250万円程度が売却相場と言われています。様々な要因で実際の価格には差がありますが、汎用性の高い店舗が好まれる傾向にあります。
ではどういった要因があれば高値で評価されるのでしょうか。
以下にまとめていきます。
〇立地の良さ
駅周辺であったり、繁華街や1階で路面に面しているなど交通が良く、人通りの良い場所であればそれだけで集客に繋がりやすいので重要視されます。
〇店舗のサイズと形
広ければ高値、という訳でもなくそれぞれの業態に適したサイズがあります。そこそこの広さである方が取り回しも効きやすいため10坪~30坪までが買い手の数が多い坪数になります。
また、変則的な形であった場合座席の配置などが難しくなるため、間口が広く汎用性の高い形が望まれます。
〇設備
新しく、清潔で扱いやすいように設置されている設備はそれだけで好まれます。またリース品であった場合に残債が残っていない方が理想とされます。
〇内装
手入れが行き届き清潔感があり、流行に沿っていると高評価に繋がります。
〇賃貸条件
家賃が相場より安く、貸主との関係が良好で引継ぎが用意であるとより好印象です。
事業売却の相場
事業売却といったM&Aの売却価格は相場がありません。
というのも、規模が非常に大きな物から小さなものもありますし、条件によっては規模が大きくても価格が低いものもありますので、大まかな相場といえるものが無いのです。
事業売却の価格は企業価値評価を元にして売り手と買い手の双方の交渉により決定されることになっています。
価値評価額を出すための一般的な計算式をご紹介しますので、参考にしてください。
価値評価額=譲渡する資産の時価-譲渡する負債の時価+営業利益の1~5年分
営業利益は店舗事業の収益力に対する評価です。直近3年ほどの平均値が求められるケースが多いようです。
事業譲渡の売却価格にはどういった要因がポイントになるのでしょうか。
以下に説明していきます。
〇資産・負債
造作の質や状態が良く、時価が高いものがあることや、そのまま引き継いで活用できる在庫が豊富にあると高評価に繋がります。
逆にリース債務などが残っている場合はその分支出があるため価格に影響が出ます。
また、設備に不具合があったり、売掛金の滞留などがあるのもマイナス要因とみなされます。
〇収益力
集客に繋がりやすい立地や構造をしており、その店舗のブランド力により利益が成長または高水準で安定している。有能な人材があり引き継げる。ノウハウやブランドを引継ぎやすいものであると高値がつきます。
これとは逆に集客に繋がりにくく、ブランド力も弱い状態で、有能な人材がいなければマイナス要因となります。
現状で売り上げが好調だったとしても譲渡後に同じ品質のものを提供出来ない恐れのある事業であれば将来的な収益力が無いと判断されます。
そうした店舗であっても、売主が売却後も店舗に一定期間在籍して中心的なポストを担ったり、事業引継ぎに協力したりする取り決めにすれば収益力の評価や売却価格にも影響を与えることが出来ます。
居抜き店舗売却の流れ
居抜き売却を実際に行う場合、どういった流れで進めれば良いのでしょうか。
以下で説明していきます。
1.売却までの計画を立てる
ここでの計画は日程を決めるだけではありません。売却の対象、時期、いくらで売却したいのか、売却できない資産や負債をどう処理するかを決めて退店までどういった事業方針にするかなども含めて細かな計画を立てていきます。
不動産に携わることですので居抜き専門の仲介業者を利用すると良いでしょう。
信頼出来る仲介業者に依頼することで難しい契約上の取り決めや売却価格の相談も出来ますし、これ以降の段階でも自身では難しい事柄が出てきます。不要なトラブルを回避するためにも活用しましょう。
2.物件貸主との居抜き交渉
スケルトン物件での退店が契約書に記載されているケースが多いので、居抜き売却の許可交渉、場合によっては居抜きの承諾料を支払います。
また、通常であれば解約予告というものが必要になり、その期間を過ぎても買主が現れなかった場合にはスケルトン物件で退店しなければなりません。
この解約予告無しで居抜き売却を行えるよう交渉するのが得策です
ここでも仲介業者に依頼をしておくことで交渉を有利にするサポートや、代理で交渉してくれる場合もあります。
3.買主を募集する
付き合いのある同業者や取引先などの自身のネットワーク先で買主が見つかれば良いのですが、見つからない場合には仲介サイトなどを利用してみましょう。
仲介業者に依頼している場合にはWebで店舗情報を掲載し、買い手を募集したり、購入を検討している候補者へ交渉もしてくれます。
4.内見・交渉
買主候補者が現れたら、実際に店舗を内見してもらいます。そこでWebには掲載していなかった細かい店舗情報や売主買主双方での売買条件の交渉を進めていきます。
5.買主と売主、貸主の契約
買主と売主双方で諸々の条件や金額について話がまとまったら、買主と店舗の貸主との間で賃貸借契約に向けた話し合いを行います。
買主と貸主との間でも合意が得られ入居審査に合格すれば、内装などの造作譲渡契約を締結します
契約内容の細かい事柄に関しても、仲介業者に依頼している場合にはサポートしてもらいましょう。
6.店舗の引き渡しと対価の受け取り
ここまでの契約に従って店舗と決められた造作などを引き渡し、対価を受け取って居抜き売却は完了します。
事業売却の流れ
では、事業譲渡はどのような流れで売却まで至るのでしょうか。以下に説明していきます。
売却後の事業展開を含めた検討
居抜きと違い、売却してもそのブランドのまま事業を継続することになります。それを踏まえて売却後の事業展開も考慮しつつ、売却希望価格やスタッフの雇用をどうするか、買主候補に求めるべき条件などを決定していきます。
事業売却といったものはM&Aという取引になります。
M&Aに特化した仲介業者もいますので自社に合った専門機関に依頼することでスムーズに進めることが出来ます。
買主の募集
特殊な場合を除き、通常であればM&A専門の機関サービスを利用して買主候補を募集します。
Web上のプラットフォームなどに社名など特定される情報は伏せた上で売却予定の事業概要や希望条件を掲載し、交渉を打診します。
秘密保持契約締結
買主候補が交渉に応じれば、秘密保持契約を締結します。これには公開していなかった社名や詳細な事業内容などの情報も今後話し合いの場で出すことになりますので、他に漏らさないという取り決めになります。
秘密保持契約締結後により綿密に会談を行い、新たに公開された情報なども加味した上で売却条件やM&Aに関する意思などを詰めていきます。
基本合意書の締結
ここまでの会談で双方の合意が得られれば基本合意書を締結します。
基本合意書には現時点での譲渡の対象や価格の暫定的な合意内容や、今後の交渉・手続きに関する義務事項などを記載します。
義務事項には独占交渉権と言われるものが記載され、これは他の売主・買主と交渉をしませんよという約束を決めるものです。
デューデリジェンス
基本合意書の義務事項には独占交渉権の他にデューデリジェンスの協力が記載されます。
買主側が売主側から得た情報に齟齬が無いか調査したり、店舗内見を行ったりして情報を精査します。これをデューデリジェンスと言います。
売主は求められたデータの提出や、内見の立ち合いなどを通して協力します。
事業譲渡契約の締結
デューデリジェンスの調査結果も踏まえて条件などの交渉を行い、話がまとまると事業譲渡の契約を締結します。
譲渡実行
譲渡対象の資産や負債など、取り決められた譲渡対象のものを買主に譲渡する手続きを行います。全ての手続きが完了した時点で事業譲渡が成立します。
店舗売却を成功させるコツ・注意点は
どういった点に気を付けながら店舗売却を進めていくべきなのかポイントをまとめて説明していきます。
店舗の売却の着手は余裕のあるうちに
自身の加齢に伴って日々の業務が辛くなってきてからや、経営の悪化で赤字続きですぐにでも退店しなければならない、といった状況になってから店舗売却への動きをとろうとしても非常に不利な結果になります。
というのも、買主探しや交渉、貸主との協議などを短期間で行う必要があり、加えてそれは日々の業務をこなしながらになってしまいます。こういった環境では不利な条件で売買交渉に挑む事になるので、店舗の売却を視野に入れ始めたら早期に着手しておきましょう。
売却までのプランをきちんと立てておく
どの順番で、どの手続きをとるのか、どの相手とどのような交渉をとるのか。また妥協する範囲はどこまでなのかといった部分をあらかじめ決めておきましょう。
日々の営業と並行して行う必要がある為、仲介業者に依頼をして条件を伝えておき、プランをたててもらうとスムーズに進めることが出来ます。
居抜きや事業売却で関わってくる売主・買主・貸主・従業員・取引先などにも適切な順番で情報の開示・交渉を行う事で良い取引が完了します。
リスクや問題点を把握しておく
店舗内見やデューデリジェンスで買主候補の立場でも確認が店舗などの確認が入りますが、売主側の方でも事前に問題点のある部分に関しては事前に把握し改善できる範囲は改善しておくと評価が高まります。改善が難しい点でも事前に伝えておくことで譲渡後のトラブルを未然に防ぐことが出来ます。
店舗売却の時にどこに相談すればいいのか
流れを確認しただけでも非常に大変で、時間も手間もかかりますよね。どうすべきか困った時に活用できる相談先はあるのでしょうか。
居抜き売却は居抜き専門の仲介業者がある
最近では居抜き物件に特化した仲介業者も多くいます。造作譲渡の仲介や退店、居抜き物件の購入希望者へ物件の紹介等も取り扱っています。その多くが顧客を獲得するために相談までは無料にしていますので活用しましょう。
居抜き専門の仲介業者を利用すれば自分で買主を探す場合に比べてはるかに広範囲の相手から買主を探すことができるので、より好条件で短期間での売却が期待できます。
業者によっては購入検討者への交渉や物件の貸主への交渉なども行ってくれる所もあります。信頼できる担当者を見つけることに時間をかける価値はあります。
店舗の事業売却にはM&A仲介会社がおすすめ
M&A専門業者にはファイナンシャル・アドバイザー(FA)、M&マッチングサイトやM&A仲介会社などがあります。
FAは買主か売主の一方のみと契約し、依頼主の利益最大化を目指してサポートします。
大手企業などがじっくり時間とコストをかけて事業売却を行う場合に適しています。
M&Aマッチングサイトは売主と買主のマッチングに適しています。そこからの交渉や取り決めなどは自身で行うか、仲介会社などに支援を依頼することになります。
M&A仲介会社は売主と買主の双方と契約を交わし、スムーズな売買契約をサポートをするのがメインの働きです。中小企業・個人事業主の案件を得意としています。
店舗売却で発生する費用と税金
売却をするので売却金額に目がいきがちですがそれまでにも費用が発生しますし、所得があるということで所得税なども発生します。
居抜きで発生する費用と税金
まず売却に至るまでに発生する可能性のある費用を確認していきましょう。
〇居抜き専門業者の仲介手数料
業者ごとに料金体系に差はありますが、ほとんどの場合が売却成約時に造作譲渡価格の10%程度を支払うケースがほとんどです。
〇貸主承諾料
居抜きすることを交渉、承諾を得た場合には承諾料として支払うものです。こちらも造作譲渡の10%程度を支払うケースが多いようです。
〇その他の費用
譲渡対象外となった什器や設備の廃棄費用や、在庫などの処分費用が発生します。
次に、税金です。こちらは細かなものもありますので仲介業者に相談しつつきちんと確認しておきましょう。
金額の大きい所得税と忘れがちな印紙税について説明していきます。
〇所得税
土地や建物の譲渡による所得は他の所得とは分けて所得税の対象となります。
計算方法は以下の通りです。
譲渡所得=譲渡価格-購入代金-譲渡にかかった費用で計算し、この結果が黒字であればその金額に対して15%もしくは30%の所得税が発生します。
この割合はその店舗の所有年数が5年以上(15%)かそうでないか(30%)で変わります。
〇印紙税
印紙は契約書に貼り付ける租税の事です。法律的な効力の安定化を図るために用い、金額は売却金額によって異なりますがおよそ1,000円の印紙を用いることが多いです。
事業売却で発生する費用と税金
主な費用はM&A専門業者に支払う手数料です。依頼した業者によって異なりますので確認していきましょう。
〇リテイナーフィー
一定期間の継続的なサポートをしてもらう代わりに支払う定額顧問料になります。月額数十万円程度をみておくと良いでしょう。
〇中間報酬
基本合意が成立した時点で支払うものになります。稀に無料のケースがあるようですが、大体は予想される成功報酬の10~20%、もしくは100~200万円程度のようです。
〇成功報酬
譲渡契約が成立し、無事売却金を受け取った際に支払うものです。小規模のM&Aのケースでは譲渡金額の5%程度のようです。
〇企業価値算定費用
その企業にどれくらいの価値があるのか算定するために支払う費用になります。目安は50万円~になります。
〇デューデリジェンス費用
売主が公開している情報に対し齟齬や問題が無いかチェックする作業に対し支払うものになります。おおよそ100万円~となります。
次は税金です。
売主が個人の場合所得税と復興特別所得税が課されます。
所得税に関しては居抜き物件と同様の形で計算していきましょう。
その他にもM&Aの手法に応じて税金の種類も変わりますので、自己判断せず業者と細かく確認して手続きを進めていきましょう。
まとめ
店舗の運営にはそこで働く人々のノウハウ、ブランド力、内装などの造作などの経営資源が集まって成立しています。居抜きや事業売却によりそうした経営資源を売却すれば売却益が得られるだけでなく、それまでの事業・店舗の価値がこれからも活かされていくことに繋がります。
退店を検討されている方も一度業者へ依頼し、もしもの場合にはスムーズな取引が出来るよう備えておきましょう。
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